いつ,どこへ,どのように避難するのか

河川の氾濫による洪水や土石流などの土砂災害は、それらの発生する場所や規模について、気象庁でも前日までに正確に予測することが出来ないのが現状だ。雨量などが経験的な許容値を超えてしまい、自分たちに被害が発生しそうになった時に、最低でも自身や家族の命を守るためには早めの避難が不可欠だ。しかし、普段から避難の準備をしていなければ、幸運を期待して避難行動をためらうことになりがちだ。

自身の居住地などが含まれる災害ハザードマップを平時に閲覧し、想定されている自然災害のタイプや危険度を理解しておくことが、災害が身近に迫ってきた時に早めに避難しようと考える動機になる。そして災害の危険度が高い場所にいる場合ほど、日頃から最新の気象警報・注意報などを確認する習慣をつけ、何をきっかけに避難行動を始めるべきか、どこへ移動するべきか、車で行けるのか、何を持ち出すべきかなどについて、平時に具体的に計画しておく必要があるだろう。

YAHOO! 防災速報アプリ版
自治体が住民に通知する避難情報や、豪雨、土砂災害、洪水、津波、地震、噴火の予報や速報などをスマートフォンに通知してくれる無料のアプリ。速報の対象となる地域の設定は、現在地の他に3地点を登録できる。
一時避難場所の開設
災害が発生するおそれがある時(警戒レベル:3以上)に、各市町村は予定された緊急避難場所を開設し、対象の住民に一時避難を呼びかける。緊急避難場所・避難所などの場所は都道府県や各市町村のウェブサイトで公表されている。そして当日の避難所の開設状況や混雑状況をウェブサイトで公表する仕組みを設けている自治体もある。なお、マイカーによる避難は、駐車場所の制約に加えて道路渋滞や交通事故を招くなどの懸念もあるため原則禁止とされている所が多いようだ。
YAHOO! 避難場所マップ
全国の市町村が指定した避難場所を検索し、その所在地を地図上で確認することができる。地震・津波・洪水・土砂災害などの災害の種類によって使える避難場所は変わる。実際に避難する際は、自治体が公表する最新の開設状況を確認した方がよい。
災害・避難 感染症ナビ(塩野義製薬)
人が集まる避難先で感染症に罹ることを避けるためには、まずは知人宅、ホテル、車中泊、垂直避難など、より安全な場所へ分散して移動・避難することが大切になる。ハザードマップ上で災害危険度が低い場所に住んでいたり、頑丈な建物の3階以上に住んでいる人などは、在宅避難が望ましい場合がある。 避難所へ行く場合は感染症予防のために、不織布マスク、除菌ウェットティッシュ、体温計、スリッパなどをなるべく持参する。避難所では窓・扉を開け、人との距離をとり、室内での会話を避け、トイレやドアなどの共用部分をこまめにアルコール消毒し、共用物をさわった手をこまめに洗う、段ボールなどで間仕切りを作る、などの対処と協力が必要になる。

避難所開設状況等が分かる自治体Website

〔北海道・東北地方〕 〔関東地方〕 〔中部地方〕 〔近畿地方〕 〔中国・四国地方〕 〔九州・沖縄地方〕

要支援者への配慮

高齢者、障害者、乳幼児、妊産婦、病弱者など、避難所で生活する場合に特別な配慮を必要とする人とその家族(要援護者)や、自主的に避難することが難しい外国人などについては、災害発生時は既定の生活支援者による緊急の援助が及ばない恐れがある。そのような場合は、要援護者の近所に住んでいる元気な人たちなどが、対象者の早めの避難に協力することが期待される。

自治体は要援護者のために「福祉避難所」を設置することになっているが、受け入れ態勢の準備などに日数を要することも予想される。災害リスクがある場所にいる要援護者の生活支援者には、平時から自助・共助の体制作りにも配慮することが望まれる。

大雨時の自動車運転の危険性

気象庁の「雨の強さと降り方」の解説によると、1時間雨量が30mmを超える「激しい雨」では、ワイパーを速くしても前方が見づらくなり、道路が川のようになり、高速走行時はブレーキが効かない場合がある。そして50mm以上の「非常に激しい雨」になると、雨が滝のように降り、周囲が見えにくく、車の運転はとても危険になる。

激しい雨の時は、後続車に自分の車を早めに発見させるため、昼間でもテールランプ(車幅灯)を点灯させることが必要。大雨の時は、特にタイヤの残り溝が浅い場合、車が止まりにくくなったりハンドル操作が一時的に効かなくなることがある。

深く冠水した道路をクルマで走行すると、エアクリーナーに水が入ってエンジンの吸気量が減少したりオルタネーター(発電モーター)が機能しなくなるなどの原因でエンジンが止まり、走行不能となる場合がある。クルマがドアの高さまで浸水すると、車体が浮いて流されたり、水圧のためドアを開けられない場合がある。そして車内まで浸水すると電動ウィンドウが動かなくなる恐れがあるので、その前に脱出するか窓を開けて空気を入れるべきだ。車内の水位が上がって車外からの水圧が弱まるとドアが開けやすくなるだろう。

水深10cm以下ならば、一般的にはクルマは低速で走行可能だ。しかし、路面が低くなっている場所では浸水が意外に深いことがあるし、豪雨・洪水時はわずか数分で状況が悪化する場合もある。大雨・洪水警報、暴風警報などが発表されている時は、交通渋滞により車両が長時間進めなくなったり、土砂崩れ、倒木、道路損壊、浸水などにより道路が通行止めになっている場合がある。特に線路などの下をくぐる箇所や土地が低い場所は水没していることが少なくない。

狭い道路での交通渋滞による車列は緊急車両の通行を妨げる。路上に放置された車両があれば、後で交通を妨げたり道路復旧の障害にもなる。クルマの運転者は、移動中に道路上で走行不能になる事態を出来るだけ防ぐ義務がある。走行中に道路の状況が危険になる恐れがある時は、近くのより安全で迷惑をかけない場所を探して一時駐車し、状況によってはキーを付けたまま(移動可能な状態)にして徒歩で避難する。

利点の多い、早めのマイカー避難

洪水や土砂災害などによる被害を避けるため安全な場所への移動が必要だと判断した場合、水や食料などの非常持ち出し品を持ち運んだり、家族やペットと一緒に避難するためには、やはりクルマを使おうと考えるのが普通だろう。歩くことが難しい高齢者などの要援護者の移動にはクルマが欠かせない。また、浸水によるマイカーの損害を避けたいし、避難所での人の密集や満員を避けて分散避難するという意義もある。 クルマがあれば、燃料消費の心配はあるがクーラーが使えたり、専用アダプタを使えばスマホの充電などもでき、肺塞栓症などのリスクはあるが車内でどうにか眠ることもできる。

その反面、特に都市部で災害が発生した際には、救助要請が同時多発するなどして緊急車両の通行が普段以上に優先される状況になると予想されるので、あわてて避難する多数のマイカーにより主要道路が渋滞したり車両事故が多発する事態を極力防ぐことも重要な課題になるだろう。

比較的安全な場所にある"道の駅"や専用駐車場を持つ商業施設などの管理者には、洪水警報等が出された時にマイカーの臨時避難場所として駐車場の使用を許可する場合は、対象とする車両・所有者などの条件を予め定めて自治体等とも協同して公表・周知し、災害発生時の周辺住民の混乱と被害の軽減に貢献することが望まれる。

〔車の一時避難場所を提供する事例〕

洪水を予想した避難

内水氾濫に備える
平野や低地にある市街地などでは、1時間雨量が50mmを超える程の集中豪雨が続くと内水氾濫が起こりやすくなる。雨が激しくなってから1時間も経たないうちに水路や下水道が溢れ始める恐れもあり、線状降水帯が発生しそうな時は特に、早急の備えや行動が必要だ。まずは市町村が公表している浸水想定区域図を平時によく見て、自身が係わる土地の危険度を知っておくことが大切。大雨の予報が出ている時は、前掲の自治体の防災サイトや"各地の雨雲レーダー(実況)","浸水キキクル"などで最新の気象・防災情報をこまめにチェックし、早めの避難を含めて自主的に対策を考えよう。
河川氾濫に備える
河川氾濫はおもに堤防が決壊して起こる現象。河川の流域で強い雨が長く降り続いたり豪雨があった時には警戒が必要。大きな河川(本川)の水位上昇に伴って、その支川の周辺などでは内水氾濫が起きることもある。堤防が決壊すると短時間に大量の水が市街地に流入し、広域の浸水被害が起こり、水が引くまでに数週間もかかる場合がある。想定浸水深は、市町村が作成した「洪水浸水想定区域図」(洪水ハザードマップ)により自治体ウェブサイトなどで公表されている。 洪水予報の対象になっている大きな川(指定河川)は全国に400余りあり、それらについては「氾濫警戒情報」(洪水警報に相当)などが発表される(→川の防災情報/国土交通省)。 河川の水位情報は自治体の防災サイトでも公表されている。中小河川を含めた洪水の危険度を予測した分布図は、"洪水キキクル"で見ることができる。 雨が弱まっていても下流の水位は上昇することがあるので、洪水警報が出ている間は油断大敵だ。ダムの放流による河川水位の急上昇・氾濫の可能性も考慮するべき場合がある。
浸水深と避難行動について(国土交通省)
一般的家屋では浸水深が50cm以上で床上浸水し、2m以上では1階がすべて水没、5m以上では2階の屋根まで水没する。想定される浸水深が3m以下の場所ならば頑丈な2階以上の建物へ、また3mを超える場合は3階以上の建物へ避難することが必要。 浸水深が大人の膝の高さ以上になり水流があると、殆どの人が歩いて移動することが困難になる。 浸水した道を歩いて避難する場合は、脱げにくい紐靴を履き、水が濁っていることが多いので杖などで足下の安全を確かめながら進む。救助も困難になるので、雨が激しくなる前に避難行動を始めることが重要だ。
水災害の避難時の危険性(NHKそなえる防災)
洪水内水氾濫の時は、20〜30分で浸水深が50cmを超え、床上浸水となるおそれがある。水の力は水深や流速の少しの増加によって急激に増大し、人やクルマは流されやすくなる。幅80cmの一般的なドアに掛かる水圧は、水深30cmで36kg、50cmでは100kgになる。木造家屋は水深が2m以上かつ流速が毎秒2m(7.2km/h)以上あると流される恐れがある。逃げ遅れると命の危険性が高まる。
[水害編] 警戒レベルに関する映像 - 内閣府 [YouTube/21:11]
水害・土砂災害の事例や、気象庁・都道府県・市町村などが発表する警戒情報の内容などを解説する避難啓発ビデオ。
"立ち退き避難","屋内安全確保"などの判断は?

土砂災害を予想した避難

崩れやすい場所とは
土砂災害は、土石流(山腹が崩れて土砂や岩が一気に下方へ流れ出る)、がけ崩れ(急斜面の崩落)、地すべり(斜面表層が広範囲に一度に崩落)の3種類に分類されている。各都道府県が指定した「土砂災害警戒区域」などは、地図上に領域が示された画像データの形で自治体ウェブサイトで公表されている。また"重ねるハザードマップ"では、洪水などの様々な自然災害リスクを、全国の任意の地点を選び地図上に表示させる方法で閲覧することができる。
命を守る行動とは
自宅などが警戒区域内にあり、大雨警報が発表された時は、現時点の土砂災害の危険度分布の状況を"土砂キキクル"でこまめにチェックすることが重要だ。夜間に豪雨が続いて状況が急変する事もあるので油断は禁物。そして赤色の警戒レベルが表示されたら、警戒区域外の安全な場所へ2時間以内に移動することが望ましい。その際に、山や斜面の方から不自然な音が聞こえたり、急に泥水が流れてきたり、土の臭いがしたり、渓流の水かさが急に下がったりした場合は、下流に対して直角の方向にある高い場所や、近くの頑丈な建物の2階以上の場所へ急いで移動することで被害のリスクを下げられる。自治体の避難指示は遅れる事もあり、生き埋め等の事故を避けるために、安全に移動できるうちに安全な場所へ避難することが肝心である。
広島土砂災害の教訓―命を守る3つの心得(内閣府)
平成26年8月、広島市で土石流やがけ崩れが多数発生し74人の命が奪われた。局地的な集中豪雨の頻度は増えており、土砂災害の発生件数は平成25年までの10年間の年平均が1,100件を超えた。 土砂災害から命を守るためには、(1)普段から災害ハザードマップを見て居住地域の危険度や避難経路を確認しておく、(2)大雨が降り始めたら気象予報や最新の土砂災害危険度分布に注意し、避難指示が出されたらすぐに避難する、(3)がけ下や渓流沿いに住んでいる人は、明るいうちに早めに安全な場所へ避難する。 「自分の命は自分で守る」という意識を高め、住民が自主的に防災に取り組むためには、住民の絆を深める活動も大切だ。
[土砂災害編] 警戒レベルに関する映像 - 内閣府 [YouTube/19:09]
令和元年の東日本豪雨までの近年の土砂災害による被害事例をふまえて内閣府が作った避難啓発ビデオ。

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[Updated 2024-02-08]