滋養に富む多様な食品を選んで認知症を予防

認知症の予防を目的としてアメリカの医学研究者が考案した「MINDダイエット」という食事方式では、認知症を含む疾病の予防効果が知られている「地中海食」などを参考にして、積極的に食べるべき10種類の食品と、なるべく避けるべき5種類の食品が示されている。 認知症ではない高齢の被験者923人を対象とした追跡調査の結果では、「MIND食」を厳密に実行した人たちは、アルツハイマー病発症リスクが53%低かったと報告されている。

また、死亡した高齢者569人の追跡解析結果から、MIND食の順守度合いを表す「MIND食スコア」が高かった人ほど、死亡直前の認知機能の評価も高いという関連性が確かめられている。さらに、死後の脳の検査によってアルツハイマー病と同様の病変が認められた場合であっても、「MIND食」を実践していた人は生前に認知症と診断される状態ではなかったという。

65歳以上の日本人1万3千人余りに対して食品の摂取状況を調査し、平均5.7年間の追跡調査を行った結果では、の推定摂取量を4段階に分けて分析したところ、摂取量がより多い群ほど、認知症発症リスクが低くなる傾向があったと報告されている。

65歳以上の日本人3146人について、日本食の摂取状況の追跡期間(平均5年)内の変化と認知症の関係性を分析した研究では、8品目の食品摂取量から算出した「日本食指数」がより大きく下がった群では、指数が変わらなかった群に比べて認知症のリスク1.72倍に高まる傾向があった。 それに対して「日本食指数」がより大きく上がった群では、指数が変わらなかった群に比べて認知症のリスク38%ほど低下する傾向があったと報告されている。

60歳以上の日本人1081人について17年間(2005年まで)追跡調査した結果では、牛乳・乳製品の摂取量により4群に分けた集団のうち、摂取量が2番目に多い群認知症の発症率(多変量調整値)が、摂取量が最少の群に比べて31%ほど低かったことが報告されている。摂取量が最も多い群では、2番目に多い群よりも発症率が上がったが、摂取量が最少の群に比べて発症率が20%ほど低かった。

東京都在住の65歳以上の女性1035人を対象に、食習慣の調査や認知機能テスト(MMSE)を実施した研究では、チーズを毎日食べる人は、チーズを2日に1回以下しか食べない人に比べてMMSE得点が高い傾向があり、さらにカマンベール チーズを食べていた人は、それ以外のチーズを食べていた人に比べてMMSE得点が有意に高いことが認められた。

軽度認知障害がある65歳以上の女性71人を対象に、カマンベール チーズを食べる群とプロセスチーズを食べる群に分けて、それぞれ毎日2片のチーズを3か月間摂取してもらい、その介入後3か月たってから、各群の食べるチーズを逆に替えて3か月間毎日摂取してもらった試験の結果では、脳の栄養分である「脳由来神経栄養因子(BDNF)」の血中濃度が、カマンベール チーズを食べた群で顕著にふえていたことが確認された。

パン、ピザ、パスタ、ラーメン、うどん、シリアル、ケーキ、クッキーなどの小麦粉を原料とする食品には、蛋白質の「グリアジン、グルテニン」(グルテンの成分)などが含まれている。小麦アレルギーがある人は、これらの蛋白質を含む食品を食べたことにより、皮膚、呼吸器、粘膜、消化器などに様々な症状が表れることがある。食品のアレルギー表示の対象ではない「大麦、ライ麦、オート麦」等の麦類に含まれる蛋白質についても、小麦アレルギーの人では症状が表れることがある。

その一方で、食後短時間(通常2時間以内)ではっきりした症状が表れることはなくても、グルテンを含む食品を日常的に食べ続けることによって、多くの人々において、脳機能の変調を含めた全身の様々な症状が表れたり症状が悪化したりしているらしいという報告もある。グルテンの成分が腸管内のバリア機能を低下させ、そのために本来は腸管から漏れてはいけない食物成分や細菌などが体内に入り、それらが免疫反応によって慢性炎症を起こして様々な疾病を発症させることが報告されている。(→Leaky Gut Syndrome)

また、胃や腸で消化液や消化酵素の働きが低下していると蛋白質(食物アレルギーの原因物質)が十分に分解されなくなるが、それに加えて腸内細菌のバランスも悪い状態になっていると腸管のバリア機能が低下し、未消化物等の一部が腸壁を透過して血液中に入ることがある。その場合は免疫反応が強く作用しやすいので、前記のように慢性炎症が起こりやすくなる。このように胃腸の機能低下が、アレルギー疾患や自己免疫疾患の発症、生活習慣病の悪化にも係わっている恐れがあることが報告されている。

パン、ラーメン、ケーキなどの小麦粉を原料にした食品を毎日のように食べている人で、腹痛、便秘、下痢、貧血、倦怠感、食欲不振、頭痛、皮膚症状、関節炎、目・口の乾き、などの症状がある場合は、原料に小麦やグルテンを含む食品の摂取量を出来るだけ少なくして、野菜・きのこ・海藻類で食物繊維を多めにとり、糖質を多く含む白米・餅・いも・菓子を控え目にし、魚・卵・豆類や発酵食品を適度にとるように努めて継続すると、体調が改善するかもしれない。腸内環境の改善による健康維持を目的とした「プロバイオティクス」の機能性をもつ様々な発酵乳食品(特定保健用食品)などが市販されているので、それらを利用するのも有益だろう。

小麦加工食品や白米は「食後高血糖」を起こしやすい性質があるので、血糖値が高めの人は、将来、糖尿病や認知症などに悩まされる事態を避けるためにも、それらを食べる量を減らしたり、日々の運動量をふやす必要がある。

慢性炎症は癌・動脈硬化・神経変性などの疾患とも関連することが解明されつつある。認知症の患者では、より重症の人ほど炎症性サイトカイン(炎症を起こす細胞伝達物質)の分泌量も多かったことが報告されている。

アメリカでの21万人を超える疫学調査データの解析結果では、赤身肉、加工肉、揚げ物、精製穀物、糖類などの炎症誘発性の食品の摂取量が最も多かった群は、抗酸化物質と食物繊維を豊富に含む抗炎症性の食品の摂取量が最も多かった群に比べて、心臓病のリスクが1.46倍、脳卒中のリスクが1.28倍に上昇する傾向があったことが報告されている。

また、内臓脂肪が過剰に蓄積した肥満になると、炎症関与物質が多く分泌されるようになり慢性炎症が起こる。220人の男女を2群に分けて、1群に栄養バランスを考慮した25%のカロリー制限を行い2年間続けて結果を比較した研究では、摂取カロリーを制限した群において内臓脂肪が減少し、血圧やコレステロール値が改善し、血液中の炎症関与物質が減少したことが報告されている。

[Updated 2022-06-14]