良質の脂質を適量摂って認知症を予防・改善する

炭水化物、蛋白質、脂質が三大栄養素といわれる。脂質は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に大別され、飽和脂肪酸は常温では固形の脂酸化しにくい性質があり、不飽和脂肪酸は常温では液体の油である。

肉や乳製品の成分の動物性脂肪や、加工食品によく使われるパーム油に多く含まれている飽和脂肪酸は、摂り過ぎると動脈硬化を促進し、心筋梗塞などの循環器病のリスクを高める。反対に飽和脂肪酸の摂取量が少ないと、脳卒中のリスクが高まるとの報告がある。生活習慣病の予防を目的として厚生労働省が定めた脂質の摂取基準では、飽和脂肪酸の目標量は、総エネルギー摂取量の7%以下となっている。

豚ばら肉の飽和脂肪酸の含有量は 13/100g とされている。一日の必要摂取カロリーが2000kcalの場合、飽和脂肪酸の目標量は140kcal以下になり、脂質の質量に換算すると約15.6g以下になる。この条件では、一日の豚ばら肉の摂取目標量は120g以内となる。

平成30年度の国内調査では、20歳以上で脂質を摂り過ぎている男性の割合は約35%、女性は約43%であった。近年、脂肪エネルギー比率(目標値:20〜30%)が30%以上の人の割合が、男女共に増加傾向にある。脂質の摂り過ぎは肥満につながりやすい。アメリカでの研究では、肥満であっても代謝異常がない人では認知機能テスト成績が悪い傾向が見られ、肥満かつ高血圧、高血糖、高脂血症の2症状のある人では認知機能テストの成績がさらに低く、脳の総容積が減少している傾向が認められたと報告されている。

不飽和脂肪酸には、体内で合成できるn-9系(オメガ9)脂肪酸や、食事から摂取する必要がある「必須脂肪酸」のn-3系(オメガ3)脂肪酸n-6系(オメガ6)脂肪酸がある。 n-9系のオレイン酸はオリーブオイルに多く含まれ、他の植物油に比べて酸化しにくいので加熱調理に向いている。 n-3系脂肪酸には、えごま油、しそ油、亜麻仁油などの植物油に多い「α-リノレン酸」や、魚介類に多いドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)がある。 n-6系脂肪酸には、大豆油、コーン油、綿実油、なたね油、紅花油、ごま油などの植物油に多いリノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸などがあり、食品から摂取しているn-6系脂肪酸のほとんどがリノール酸である。

厚生労働省の食事摂取基準では、n-3系とn-6系の必須脂肪酸のそれぞれについて摂取の目安量が示されている。その質量比は n-3系=1 として n-6系=およそ4 となっている。n-3系脂肪酸一日の摂取目安量は、性別・年齢により異なるが、1.6〜2.2g とされている。

ところが実態としては、n-6系脂肪酸の摂取量やn-3系に対する比率が目安量を上回っている人は少なくないとみられる。血液中の"EPA/アラキドン酸"比率(EPA濃度)が高い群ほど、心血管疾患による死亡率が顕著に低かったという研究報告がある。アラキドン酸はリノール酸から代謝生成され、脳の神経細胞などで重要な働きをしているが、炎症や血栓の形成を促進する作用もある。一方でn-3系脂肪酸には、炎症を抑えたり血流を良くする作用などがある。リノール酸は酸化しやすく、加熱調理すると一段と酸化が進んで「過酸化脂質」に変質する。過酸化脂質は細胞を傷つけ、発癌、動脈硬化、認知症のリスクを高める。n-3系の亜麻仁油などはさらに酸化しやすいので、加熱せずに摂取し、早めに使い切る必要がある。

飽和脂肪酸の一種の「中鎖脂肪酸」は、ココナッツオイルや牛乳・乳製品に含まれる脂質で、短時間でエネルギーになる性質があり、体脂肪として蓄積されにくく、継続摂取によって内臓脂肪が減少したという研究報告がある。 体内で糖質が不足すると「ケトン体」が多く生成されるようになり、脳ではグルコース(ブドウ糖)が不足するとケトン体が代わりのエネルギー源になる。アルツハイマー病の脳では常にグルコースがうまく使われない状態になっている。中鎖脂肪酸を摂取すると、短時間でケトン体がより多く生成され、脳のエネルギー源として使われる。

認知症ではない60歳以上の被験者19人に、中鎖脂肪酸(MCT)を加えた特別な粉ミルクと、MCTの代わりに長鎖脂肪酸の油を加えた同様のミルクを、それぞれ別の日に摂取してもらい、認知機能テストを行った研究の結果では、MCT添加ミルクを摂取した後のテストの成績が向上することが確かめられたと報告されている。